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乳房炎の原因菌同定と薬剤感受性検査

はじめに

乳房炎は酪農経済に多大な損失を与える疾病であり、その発生は依然として減少傾向にはありません。乳房炎とは、乳腺組織に進入した微生物により引き起こされる乳腺の炎症反応をいいます。原因となる微生物の多くは細菌ですが、真菌や藻類も原因微生物として同定されています。
 
乳房炎は原因となる菌種と感染経路から、大きく伝染性乳房炎と環境性乳房炎に分類されます。前者は搾乳者の手指やミルカー等と介して微生物が個体間を伝播するもので、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus : SA)・マイコプラズマが主要菌種として分類されます。一方で、後者は汚染された牛床や敷料に乳頭が接触することで感染するものであり、大腸菌・真菌・藻類などが主要菌種として分類されます。
 

原因菌同定および薬剤感受性検査の重要性

乳房炎は原因となる微生物が多く存在することから、原因菌の種類により症状が異なり、治療効果もその特性により左右されます。そのため、乳房炎の早期治癒、発生予防には原因菌に基づいて対処することが重要であるといわれています。従って、原因菌同定は治療方針の決定や感染のコントロールをするうえで必要不可欠なことなのです。また、治療のために抗菌剤を使用し、その効果を最大限に発揮させることで薬剤耐性菌の発現を最小限に抑えることが可能となります。
 

乳汁を用いた原因菌同定と薬剤感受性検査

乳房炎原因菌の同定法としては、血液寒天培地に被検乳汁を塗抹後、37℃、好気条件下で24時間培養して目視同定する方法が有用です。目視同定とは、培地上に出現した原因菌の集落(コロニー)の色、大きさ、においなどを参考に目視により同定する手法で、訓練次第では9割以上の確率で正確な同定が可能です。
 
薬剤感受性に関しては、簡便に判定できるディスク法で検査するのが一般的です。ディスク法とは、抗菌剤を染み込ませた小さな円形のろ紙(ディスク)を用いた検査法で、その手順および判定は以下の通りです。
 
①寒天培地に原因菌を塗抹し、その培地上にディスクを置き培養する。
②ディスクから抗菌剤が染み出すことで、感受性のある原因菌はディスク周辺で発育が阻害される。
③ディスク周囲に「阻止円」と呼ばれる原因菌の発育が認められない部分が確認できる。
④原因菌は阻止円が確認できた抗菌剤に感受性があると判定される。
 
それでは実際に行っている原因菌同定から薬剤感受性検査までの流れをSAを例に紹介します。
乳房炎罹患牛から採材した被検乳汁を培養したところ、血液寒天培地上で黄白色を呈し、完全溶血帯と不完全溶血帯を併せ持つ二重溶血を示すコロニーの発育を確認しました(写真1)。
 

写真1 SAのコロニー性状と溶血性


 
SAは血液寒天培地上で白色ないし黄色を呈するコロニーを形成し、不完全溶血もしくは二重溶血を示すという特徴があることから、原因菌はSAと同定できました。続いて5つの抗菌剤に対する感受性をディスク法にて検査したところ、全てのディスク周囲に阻止円が確認でき、感受性が認められました(写真2)。
 

写真2 薬剤感受性検査の結果


 
以上のことから、本乳房炎の原因菌はSAであり、5抗菌剤のいずれかを用いた投薬治療が有効であろうと結論付けられました。
このように、原因菌の同定、薬剤感受性の検査を実施し、治療方針を決定する際の参考にします。
 

まとめ

経済的損失の大きい乳房炎に対する原因菌同定および薬剤感受性検査の実施は、原因菌の特徴に基づいた適切な処置を可能とし、さらに治療の際の抗菌剤選択に重要な情報を提供してくれます。それと同時に、抗菌剤の適正使用の科学的根拠となります。ただし、感受性情報の臨床的有用性は高く評価されていますが、感受性と臨床効果が100%合致するものではないという点には注意が必要です。

(上川北支所 美深家畜診療所 井上和貴)

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