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家畜技術情報

乳熱

・乳熱とは

乳牛は、分娩後の泌乳開始時に、大量のカルシウム(Ca)を血液中から乳汁中へ移行させるため、しばしば恒常性を逸脱して血液中Ca濃度は7.4 mg/dL以下に急激に低下し、全身の筋肉の弛緩、循環障害あるいは意識障害を引き起こして起立不能に陥ります。これがいわゆる乳熱であり、その特徴は、低Ca血症による骨格筋および心筋の収縮力低下(分娩麻痺)と神経細胞の脱分極が起きやすくなることによる神経興奮(テタニー)が同時に現れることです。本疾患の経済損失は、乳房炎、跛行、繁殖障害に次ぐ第3番目ですが、臨床症状を示さない程度のCa濃度低下(潜在性低Ca血症)であっても、周産期疾病の発生に密接に関係することから、本疾病は酪農を営む上で非常に重要と考えられています。

 

・カルシウム恒常性

生体のCaの約98%は骨に存在し、残りの2%は細胞外液中に存在しています。体重600kgの乳牛では、細胞外液中のCa量は約8~9g、血漿中には約3 gと考えられます。ただし、血漿中Ca量の50%がアルブミンや有機アニオンと結合しているため、生物活性をもつ遊離型のイオン化Ca量はとても少ないです。この少量のCa2+が、骨格組織の形成、神経組織の刺激伝達、骨格筋と心筋収縮の刺激、血液凝固さらには乳汁成分として重要な役割を果たしているために、生体には血液中のCa濃度が狭い範囲で厳重に保たれるようなシステムが備わっているのです(図1)

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・確定診断のために

低Ca血症以外の原因による起立不能の可能性を否定することが重要です。過大子娩出有無の聞き取りや、骨盤腔内の物理的な損傷を確認するための直腸検査、筋肉や乳房の異常を発見するための十分な触診を実施する必要があります。また、毒素産生性の乳房炎や子宮炎によっても急性の低Ca血症が起こるということも十分考慮しなければなりません。

 

・治療

血中Ca濃度をできるだけ早く正常に戻すことです。静脈内へのCa投与は最も有効な治療手段となります。重篤な牛について、全身循環への持続的なCa供給を期待して2本目のCa製剤を皮下に投与することは有効かもしれませんが、血中Ca濃度を速やかに回復させたい状況において皮下投与のみを行なうべきではありません。また、Ca剤の経口投与は低Ca血症の予防としては有効ですが、臨床症状を呈している牛では消化管の吸収率が著しく低下しているため有効な治療法にはなりません。

 

・治療

乾乳期飼料中のK含量を2%以下に調整し、必要に応じ陰イオン塩を添加するなどして体液を酸性に傾けることが乳熱を予防する上で重要と考えられています。また、乾乳期に適正量のMgが給与されているかどうか確認することも重要です。
乳熱の発症が予測される牛について、分娩後にCa製剤の皮下もしくは静脈内投与が広く行なわれていますが、血中Ca濃度が低下していない状況で安易に投与することには注意が必要です。
分娩予定日の1週前から分娩まで7日間隔で1,000万I.U.のビタミンD3(VD3)を筋肉内へ投与する予防法が長期にわたり推奨されてきましたが、VD3使用の安全性を懸念する報告やその効果を疑問視する報告がされ、現在積極的な使用は控えられている状況です。

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