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家畜技術情報

人工授精(AI:Artificial Insemination)について

はじめに

大動物臨床獣医師の仕事には大きく分けて2つあります。

1つは診療 2つは繁殖

具合の悪い動物を元気に生産に復帰させることは獣医師に求められる大きな仕事であるのはもちろん、年1産を目指して後継動物・泌乳量の確保をし、農家さんの経営を後押しするのもとっても大切な仕事です。

診療は生産性を完全に回復させられないこともありますが、繁殖は農家の生産性に直接貢献できる前向きな仕事だと言う声もよく聞きます。

私の診療所では診療と繁殖が同じ割合であり、精液を雌牛の子宮内に注入する人工授精(以下AI)も行っています。

初めて、自分の手でAIをし、その子が無事に生まれてきた時はとても感動したのを覚えていますし、たくさん受胎(赤ちゃんを身ごもること)すると農家さんに喜んでもらえます。獣医師同士で受胎率を競い、よりよいAIは何かを話し合い、真剣に生命と向き合っています。

この場をお借りして、普段行っているAIについてご紹介します。

直腸検査とは

大動物の獣医師といえば『手を動物のお尻に入れる!(=直腸検査)』というイメージをお持ちの方は多くいると思います。でも、『何のために?』とよく聞かれます。

直腸検査というのは触診の一つです。

腸管にガスが張っていないか、第一胃(ルーメン)の状態、泌尿系臓器の触診、便の状態など診療として行われる時もあれば、この動物の発情はいつなのか、受胎しているのかなど繁殖としても行われます。

AIの時は、直腸越しに子宮・卵巣を触わり発情が来ているのかを診断します。発情=赤ちゃんを身ごもりたい時期です。動物は喋れないので、行動や直腸検査で判断します。(これがなかなか難しい)

発情期について

牛や豚は年間を通じて繁殖が可能な動物(周年繁殖動物)で、馬や猫は日照時間に左右され、繁殖できる季節が決まっている動物(季節繁殖動物)です。ここでは牛に着眼していきます。(図1)

卵巣には卵胞と黄体が存在し、卵胞が排卵し(破れ)黄体になります。

この黄体が発情期の王様で他の卵胞の成長を抑制します(黄体期:約14日間)。黄体期の間、卵胞は次々と成長しようとしますが黄体により抑制され小さくなります(卵胞発育ウェーブ)。黄体の寿命が尽き小さくなる(発情期約15日以降)と同時に、卵胞の発育がすすみ一つの卵胞が大きくなります。

卵胞が大きくなるとホルモンを出し、激しく鳴く、牛に乗っかる(マウンティング)・乗っかられる(スタンディング)【写真1】、粘液を出す等の発情徴候を示すようになります。この徴候を農家さんがキャッチし獣医師にAI依頼をします。

獣医師は発情徴候と直腸検査所見(小さな黄体、大きな卵胞、子宮の収縮、粘液等)を総合的に診断し、AIするか判断します。

私は、卵胞の柔らかさ、子宮収縮など直腸検査で得られる事も大切ですが、よく鳴く、ソワソワしている、粘液を出しているなど外貌からの発情兆候を大切にしています。

【図1 発情周期(牛)イメージ図】

【写真1 スタンディングで脱毛した様子】

人工授精の手順

発情だ!と診断したらさっそくAIです。

オス牛の凍結精液をお湯で融かし、専用器具(注入棒)を使い準備をします(写真2、3)。融解後は、精液の活性が落ちないよう作業を素早く、温度を一定に保ちながら注入器に装填します。

農家さんに尻尾をおさえてもらい、AI前にお尻周りをきれいにし、左手は直腸越しに子宮を、右手は注入棒を操作し子宮の中(子宮外口を越えて)に注入棒を入れます(図2)。子宮頸管を超えて子宮の中に入れば注入棒の内筒を押し精液を注入後、両手を抜きます。AIの完了です。

AI後30~60日に妊娠鑑定を行い胎子の有無を確認します(写真4)。エコーで自分がAIした胎子の心臓がパクパクしているのを見ると、この仕事をしていてよかったと思える瞬間です。胎子がいれば生まれるまで待ち、安産を願います。母は胎子を身ごもりつつ、ミルクを生産・子育てをしているので大変です。農家さんは大切に母の手助けをしていきます。

【写真2 注入器装着前】

【写真3 注入器装着後】

【図2 人口授精時のイメージ図】

【写真4 AI後約40日後の胎子】

最後に

自分の手で生命を生み出せるAIはとても繊細で奥深い技術だと思います。生命の尊さを肌に感じながら日々仕事ができるのは大動物獣医師の面白いところだと思っています。

まだまだ未熟な技術を磨いて動物・農家さんの力になれればなと思っています。

上川北支所 安念かなこ

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