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趾麻酔について

はじめに

蹄病の治療は牛が疼痛のため暴れることが多く、処置を行う獣医師にも危険が伴います。今回は疼痛をコントロールするために行う趾麻酔について写真を交えて紹介したいと思います。

症例の説明

この牛は左後肢に強い疼痛を示し、前回の治療で蹄尖潰瘍と診断され、蹄尖の角質を削切しました。一週間後に疼痛が改善されないどころかさらに悪化していたため、挙肢後包帯を除去すると写真1のように不整肉芽が膨隆していました。この膨隆の原因の一つとして、乖離した角質の不十分な削切が考えられます。しかしこの農場には削蹄枠がなく保定が不十分なため牛の可動が大きく、危険を伴うため適切な角質の削切ができませんでした。そこで2診目は趾麻酔を用いて処置を行うことにしました。

写真1

趾麻酔の実際

趾麻酔の手順としては、まず副蹄の上を駆血します(写真2)。今回は使用済みの注射用のインジェクターを駆血帯として使用しています。駆血することで血管をわかりやすくし、処置中も駆血帯を取らないことで、患趾全体に麻酔薬が行き渡るようにします。麻酔薬は2%リドカイン(キシロカイン注2%)を10ml使用します。麻酔に使用する針は21Gの翼状針を使用します(写真3)。太い針だと趾静脈に入っても血管内に針の穴に留置しにくいし、細すぎると麻酔薬が注入しにくくなります。また直接ポンプをつなげるよりも翼状針につなげることで急に牛が動いてもチューブがある分対応しやすくなります。さらに翼状針は血管に当たれば毛細管現象で血液が逆流してくるので血管の存在がわかりやすいと思います。

写真2

写真3

注射薬を入れる趾静脈は基本的には図1の第四指総掌側指静脈ですが、駆血し浸潤させるため駆血帯より遠位であればどこの静脈でも構いません。今回は写真2の赤丸で囲んだあたりを触り、波動感のある所に針を刺しました。もし血管を探すことができなければ、駆血帯を近位にずらすことでより太い指静脈に入れることができます。その際は麻酔の量を多少増やす必要があると思います。血管に針を挿入後は時折ポンプを引き血液が逆流して来るのを確認しながら全量を入れます(写真4)。指静脈は細いため、ゆっくり入れることで血管外に漏出してしまうことを防げます。全量注入後は5~6分待ってから処置を開始します。

図1(獣医カラーアトラス 牛の解剖より引用)

写真4

治療結果

今回は趾麻酔のおかげで牛が暴れることはなく、写真5のように浮いている角質を全て削切することができました。蹄の中でも痛覚が突出しているといわれる蹄尖と蹄壁の削切も、趾麻酔を行うことでこのように安全かつ確実に行うことができます。

写真5

最後に

この趾麻酔は断趾(断蹄)術にも極めて有効です。断趾術は蹄骨を切断するのですから牛は相当の激痛に耐えなくてはいけません。その際にも趾麻酔を行うことで疼痛の緩和をしてあげることがアニマルウエルフェアの観点でも重要であると思います。

もちろん牛のためではありますが、処置を行う我々の身を守るためにも重要なことです。血管の確認が難しいため簡単な麻酔ではありませんが蹄病の治療に趾麻酔を役立てて下さい。

今回は獣医師向けの内容でしたが、ご覧になっている農家さんの農場で行われる事もあるかと思いますので紹介させていただきました。

北海道中央農業共済組合宗谷支所中部家畜診療所

塚田隆興

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