情報

家畜技術情報

ケトーシスについて

ケトーシスとは

エネルギー不足時に多量に体脂肪が分解されるか、酪酸発酵サイレージを多量に摂取することで、生体内にケトン体(アセト酢酸、βヒドロキシ酪酸、アセトン)が増量し、食欲低下、乳量減少、消化管機能の低下の症状を発現した状態を指します。時に、視力消失、歩様異常、ナックル等の神経症状を示すこともあります。

また、上記の臨床型ケトーシスと異なり、「ケトン体濃度は増加しているが症状が見えない状態」である潜在性ケトーシスがあります。潜在性ケトーシスは症状が見えませんが、乳量低下や繁殖成績低下などを引き起こすため、牛群の生産性を維持、あるいは向上させるためにも注意を払わなければいけません。

 

発生経路

ケトーシスの発生経路を示します(図1)。

牛はエネルギー不足に対応するため、脂肪組織に蓄えられた中性脂肪(TG)を分解してエネルギー源として利用します。TGは、遊離脂肪酸(NEFA)として血中に分泌され、その後肝臓に脂肪酸(FA)として動員されます。FAは肝臓で分解される過程でアセチルCoAになります。アセチルCoAは、ルーメンから吸収されるプロピオン酸や、血中のグルコースが十分にある場合は、オキサロ酢酸と結合して代謝され、エネルギーとして利用されます。

しかしプロピオン酸や血中のグルコースが少なくオキサロ酢酸が不足している場合は、正常な代謝が行われず、ケトン体として血液中に放出されケトーシスとなります。

また、過度のNEFAが肝臓に流入してきた場合、VLDLの産生が間に合わずにTGが肝臓に蓄積し、脂肪肝となります。

 

 

この他、酪酸発酵サイレージを多量に摂取した場合、酪酸がβヒドロキシ酪酸(BHBA)に変換されます。こうして血中のBHBA濃度が高まることによっても、ケトーシスが発生します。牛が1日100g以上の酪酸を採食すると潜在性ケトーシス、1日200g以上の酪酸を採食すると臨床型ケトーシスの危険性が高まります。

 

病態

ケトーシスはⅠ型、Ⅱ型そして食餌性に分類され、それぞれ原因と対処法が異なるため、どのタイプであるかを突き止めることが重要です。

 

 Ⅰ型ケトーシスⅡ型ケトーシス食餌性ケトーシス
好発時期分娩後2ヵ月以内分娩後1-2週間泌乳期全般
特徴単純なエネルギー不足のため、治療に反応しやすい。脂肪肝に関連していることが多く、治療に反応しにくい。泌乳初期は重篤になりやすい。
原因分娩後の飼養管理失宜などにより必要とされるエネルギーが充分に摂取出来ない時に発生。
分娩後の調子が良く産乳量が特別多い場合も注意が必要。
乾乳期の栄養不足が原因。栄養不足によって脂肪肝となり、肝機能が低下するため、糖新生が円滑に進まず分娩や泌乳ストレスにより発症。
 採食量が低下しやすい過肥牛で多い。
サイレージ調整作業の失敗などにより、酪酸を多く含むサイレージの給与した場合、誘発される。
 ほとんどの場合、酪酸発酵サイレージは酪酸臭が強く、色も黒っぽい。
対策泌乳初期牛に対して、十分なエネルギーを供給できる飼料設計を立てる必要がある。
分娩後のグリセリン投与も効果的。
①泌乳中後期の栄養
をコントロールし、太らせない。
②乾乳期の適正な飼料設計と乾物摂取量が低下しない飼養管理に留意する。
 牛の移動は乾物摂取量を低下させる要因であるため、分娩予定の概ね2週間前からは避ける。
サイレージの給与量を制限し、酪酸を100g以上摂取しない様に他の粗飼料などに置き換える。あるいは摂取を中止する(酪酸の摂取量を減らす!)。

 

診断および治療

確定診断は血中BHBA濃度の測定です。1.2mMを基準とすることが推奨されています。

ケトーシスの発生は泌乳初期にほとんどが限定されるため、潜在性ケトーシスを評価する場合は、分娩後1か月以内の牛を対象に検査を行うと良いとされています。血液以外でも乳汁中のBHBAや尿中のアセト酢酸濃度を評価することも有用です。

治療としては、

・エネルギーの補給と脂肪動員の抑制を目的とした高張ブドウ糖製剤またはキシリトール製剤の輸液

・グルココルチコイド製剤の投与

・プロピオン製剤の経口投与

が効果的とされています。これらの治療法に加えて、肝臓内のTG排泄促進を目的としたメチオニン製剤やコリン製剤の輸液と飼料添加、肝細胞内のTG代謝促進を目的としたチオプロニン製剤の輸液の併用も有効です。

 

実際の症例紹介

第1病日:食欲不振、ルーメン運動微弱、ピング- 過肥、乳量低下、便正常
治療:高張ブドウ糖製剤

 

 

 

 

項目数値単位
γ-GT92U/L
AST310U/L
Glu30mg/dL
BHBA6.0mmol/L
FFA1.35mEq/L

 

第2病日:食欲不振
治療:グルココルチコイド製剤、高張ブドウ糖製剤
翌日以降、グルココルチコイド製剤、キシリトール製剤など

 

 

 

第5病日:食欲改善、BHBA1.9まで低下。

第14病日:治癒

(富良野支所富良野家畜診療所 松井 友美)

記事一覧へ戻る